省電力型ハイフラ防止装置の製作

 


 ピアのLEDレギュレーターを使うと、消費電力が小さくなることは分かった。では一体、どんな構造になっているか調べてみることにした。


仮説1

 まずピア H-538の動作状況を確認する。ウインカーがハイフラ状態にならない為には、ウィンカー配線から48Wの電力を消費させる必要がある。しかしレギュレーターは殆ど熱くなっていないことから、電力をバッテリーに回生(戻す)していると思われる。この検証から始めることにする。


実車調査

 右側ウィンカーを動作させた時、ウィンカーからレギュレーターへは3.66Aの電流が流れ込んでいる。また、レギュレータからバッテリーへは2.26Aの電流が流れ込んでいる。

 左側ウィンカーを動作させた時、ウィンカーからレギュレーターへは3.82Aの電流が流れ込んでいる。また、レギュレータからバッテリーへは2.55Aの電流が流れ込んでいる。

 ハザード時、右側ウィンカーからレギュレーターへは2.16A、左側ウィンカーからレギュレーターへは2.14A、レギュレーターからバッテリーへは2.64Aの電流が流れている。
 以上の計測により、左右のウィンカーからの配線はレギュレーター内でダイオードOR回路で繋がっている。すなわち、レギュレーターの入力電流は4.3A程度に、出力も2.6A程度に制限されており、左右のウィンカー動作時は、それぞれから半分ずつ電流が吸い込まれている。
 なお、バッテリーへ電流が流れ込んでいることから、レギュレーターは昇圧コンバータであることが分かる。(電流は、電圧の高い方から低い方へしか流れないので、レギュレーターの出力電圧はバッテリー電圧より高くなければならない)


仮説2

 次の仮説、レギュレーターは様々な車種に対応している。それぞれの車種で、ハイフラを防止するには、ウィンカーから吸い込む電流値も違う筈である。E52の場合、ハイフラ防止抵抗は3Ω、すなわち4Aの電流を吸い込めば良かった。上記検証結果でも、だいたい合っている。
 様々な車種に対応する為の電流制限回路がある筈である。その回路をマイコンを使って、ハイフラが起きない限度にまで電流を絞っているものと予測する。


実際の回路を考える

 電流制限を掛ける方法として、1.昇圧コンバーターの入口側で絞る方法、2.昇圧コンバーターの出口側で絞る方法がある。先ずは、入口側で絞る方法を検証してみる。
 今回、昇圧コンバーターは市販品を使用する。3タイプ用意した。A.12V入力13.8V出力の固定型(最大出力10A)、B.可変昇圧型(入出力で3V程度の電圧差が必要、最大出力5A、出力電流制限機能付き)、C.可変昇降圧型(入出力が同電圧でも動作可能、最大電流12A)である。
 電流制限の方法として、 a. シリーズ電子抵抗方式(LM338を使用)、b.PWMパルス幅変調方式を用意した。前者の作り方は後述する。後者は市販品である。aはブラス側制御の吐き出し型なので、入口側でも出口側でも使用可能だが、bは吸い込み型(NチャンネルMOS-FET)なので、マイナスアースとなる出口側には使用できない。


実験用機材

 今回使用する実験機材を紹介する。電源は最大20V5Aまで使用できるCCCV電源である。負荷は12V35Ahの鉛蓄電池である。出力電流の計測はクランプメーター、電圧はデジタルマルチメーターである。電源側は実際の自動車の配線を模擬するために、2SQケーブルを3m巻いてある。


電流制限の後に昇圧コンバーターを付ける

 入口側に定電流回路を設け、吸い込み電流を制限し、その後、昇圧コンバーターで昇圧してバッテリーに充電する。定電流回路2種類、昇圧コンバーター3種類、合計6種類の実験を行う。

1Aaの実験

目的の吸い込み電流4Aには少し足りませんが、定電流装置が非常に熱くなりる。入力40.8Wに対して出力18.4Wとなり、効率は45%となる。

1Abの実験

 目的の吸い込み電流は達成できますが、直ぐに定電流装置がオーバーヒートします。ポリスイッチがOFFになる。実用には耐えません。入力45.7Wに対して出力23.4Wとなり、効率は51%となる。

1Baの実験

 目的の吸い込み電流は達成できます。昇圧コンバーターがかなり熱くなる。入力48.1Wに対して出力3.6Wとなり、効率は7%となりる。これでは抵抗と殆ど変わりない。昇圧コンバーターの入力電圧が4V程度となっており、正常に動作していない可能性がある。

1Bbの実験

 目的の吸い込み電流は達成できるが、直ぐに定電流装置がオーバーヒートする。ポリスイッチがOFFになる。実用には耐えない。入力47.2Wに対して出力5.6Wとなり、効率は12%となる。昇圧コンバーターも相当に熱くなる。

1Caの実験

 目的の吸い込み電流は達成できる。動作も安定している。入力47.8Wに対して出力21.1Wとなり、効率は25%となる。

1Cbの実験

 目的の吸い込み電流は達成できるが、直ぐに定電流装置がオーバーヒートする。ポリスイッチがOFFになる。実用には耐えない。入力48.6Wに対して出力11.7Wとなり、効率は24%となる。


ここまでのまとめ

 前段に定電流回路、後段に昇圧コンバーターを採用した場合、目的の吸い込み電流は確保できるものの、吐き出し電流が少なく回生効率が悪い。その理由は、定電流回路の影響で、昇圧コンバーターの入力電圧が4-5Vまで低下するためである。昇圧コンバーターの能力としては、B<C<Aの順に電流供給能力が高い。PWMコントーラーは連続4Aのスイチング能力に問題ありと言わざるを得ない。


昇圧コンバーターの後に電流制限を付ける

 昇圧コンバーターの効率を上げるために、先に昇圧コンバーターで昇圧し、その後、定電流回路で電流を絞ることにする。PWMコントローラーは実用に耐えないため使用しない。

2Aaの実験

 この実験は成立しなかった。昇圧コンバーターの出力が13.8Vに固定されているため、定電流回路を経て、出口側の解放時出力電圧が12.25Vまで低下している。この状態で12Vのバッテリーを接続しても、バッテリー側に吐き出し電流は流れなかった。

2Baの実験

 まず吸い込み電流の調整を行う。昇圧コンバータ側の電流制限は使わないので最大(この場合5A)にしておく。昇圧コンバーターの出力電圧をMINから徐々に上げて吸い込み電流を4Aに調整する。微調整が難しく直ぐに5Aを超えてしまう。5Aを越えると保護回路が働くので、最初から調整をやり直す。この時点では定電流回路は制限5A(上限)に設定されているが、吐き出し電流は2.6Aになる。(ピアレギュレータと同じ)
 次に、定電流回路の電流を絞って行き、2.6Aを維持できるギリギリに設定する。ちなみに、この状態で無負荷時は、昇圧コンバーターから15V程度で電圧が供給されている。この15Vを出口側電圧の12.8Vまで低下させているのが定電流回路である。
 入力47.8Wに対して出力33.6Wとなり、回生効率は70%となる。上々だ。
 ところが、電源を切って、再度電源投入を行うと、昇圧コンバーターがうまく起動しない。起動電流が5Aを超えてしまい電源装置の保護回路が動作する。これでは実用には耐えない。 (昇圧コンバーターの説明書には、バッテリーなど大容量電源が必要とあり、突入電流が流れる構造と推測する)
 心あたりとして、この手の昇圧コンバーターでは入出力の電圧差が3V程度必要だが、今回のような使い方では、微妙な電圧関係にあるのではないか。(動作が不安定な領域)

2Caの実験(これが正解)

 まず吸い込み電流の調整を行う。昇圧コンバータの出力電圧をMINから徐々に上げて吸い込み電流を4Aに調整する。微調整ができるので楽勝だ。と言いつつ電流は僅かにふらつく。(電流制限機能はない。あるのは15Aヒューズのみ)この時点では定電流回路は制限5A(上限)に設定されているが、吐き出し電流は2.7Aになる。(ピアレギュレータと同じ)
 次に、定電流回路の電流を絞って行き、2.7Aを維持できるギリギリに設定する。ちなみに、この状態で無負荷時は、昇圧コンバーターから15V程度で電圧が供給されている。
 入力48.8Wに対して出力37.0Wとなり、回生効率は76%となる。なかなか優秀だ。
 電源のON/OFFを繰り返しても動作は安定していて再現性が良い。昇圧コンバーターは殆ど熱を持たないし、定電流回路のICも熱くならない。抵抗器が熱くなる程度だ。(抵抗器の損失は2本で1.76W)


正解だった昇降圧コンバーター

 今回使用したコンバーターは、昇圧も降圧もできるタイプだ。このタイプは入出力が同電圧(12V→12V)でも安定的に動作するのが特徴だ。
 鍵となる制御ICにリニアテクノロジーのLTC3780を使用し、4つの外付けMOS-FETを使用した4スイッチャーと呼ばれる同期整流型の高性能回路である。スイッチング周波数が200kHzと高いため、リアクトルが非常に小さい。(同期整流とは、昇圧回路のダイオードをMOS-FETに置き換えることで、電流の無駄を無くした回路)
 日進テクニカから約1万円で購入したが、元は中国のメーカーが作ったもので、アリババにも沢山でている。(米国Amazonで$24)恐らく原価は数千円だと思われる。安い物は中国製のICを使っているので要注意。
 1点だけ問題がある。入力端子台の表示が間違っている。
EN GND GND Vin+ Vin+ Vin+ と表示されているが、正しくは、
EN GND GND GND Vin+ Vin+ です。危うく電源ヒューズが飛ぶところだ。(CC回路が動作し免れた)


定電流回路

 定電流回路は、ナショナルセミコンダクターのLM338を使用している。元々このICは電圧可変型レギュレーターで単体で5Aもの電流供給能力を有する。VoutピンとADJピンの間を1.24VになるようにVou電圧を調整する。従い、出力側に電流計測用のシャント抵抗を付ければ、簡単に定電流回路が組める。加熱防止回路、過負荷防止回路などを搭載した低リップルの優秀なICだ。
 今回は、電流調整ができるようにしたいので、添付のような回路で補助電圧を発生している。この回路自体は、LM338の日本語データーシートの12ページの左上図と同じ。違いは、オリジナルはLM117で10mAの定電流回路を構成しているが、本回路ではCRD(定電流ダイオード)1本で済ませているところである。また、0.24Ωのシャント抵抗は一般には入手困難なので、入手可能な0.47Ω5Wのセメント抵抗器を2パラで使用している。(合成抵抗値は0.235Ω) 

 ICはヒートシンクに直付する。シリコングリースを忘れないように。絶縁シートが入ると熱抵抗が5倍になり直ぐにサーマルシャットダウンが入る。絶縁シートが無いと、ヒートシンクにはプラス電圧が掛かるので、他の金属部に触れないように注意する。吸い込み側に定電流回路を設けると4Aの電流が流れるのでファンは必須だが、吐き出し側に設ける場合ファンを無くすることが可能で、その代わり写真の縦横2倍程度(面積で4倍)のヒートシンクを付けると良いだろう。(写真の小さなファンでも冷却効果は相当にある)
 ヒートシンクの大きさの目安として、LM338の消費電力を推定してみる。2Caの実験から、仮に昇降圧コンバーターの効率を100%として、定電圧回路での消費電力は11.8W、抵抗器の損失が1.7WなのでLM338の損失は最大10.1W(ICの最大許容損失は25W)となる。実際には昇降圧コンバーターでの損失があり、この値より小さい。放熱器として絶縁シート無し、シリコングリス塗布で7.5℃/W程度の放熱器が必要だ。(50x54x15mm程度のアルミヒートシンクで5.6℃/W)

 なお、回路図は、本試験の総合回路となっている。入力は、左右ウィンカーからのダイオードによるOR入力、出力には保護ダイオードを入れている。ダイオードはいずれも電圧降下の少ないショットキーバイリア型(10Aタイプ)を使用した。


回生試験

 ここまで来ると、「そんな回路で本当に回生できるの?」という疑心暗鬼に陥るだろう。では実際にバッテリーから電力を取り出して、同じバッテリーに戻す実験をしてみる。
 2Caで使用したユニットをそのまま入力と出力を同じバッテリーに接続します。はい、お判りのようにちゃんとバッテリーから4.17Aを吸い込んで、バッテリーへ2.68A吐き出している。電流差の部分は、殆どを定電流回路で消費している。吸い込み電流が増えるのは、2Caの実験で使用した電源電圧12Vより、バッテリーの電圧の方が高いからと推測する。吐き出し側は定電流回路の働き、電流値には変化がない。
 実車での試験に備え、吸い込み側の電流値を4.0Aになるように昇降圧コンバーターを調整しておく。これで、完璧にピア H−538をシミュレートできる筈だ。


実車での試験

 早速、E52に取り付けて動作するか検証してみた。結果、ウィンカーの正常動作と設計通りの吸い込み電流、吐き出し電流を確認した。大成功!
 確かに部品代はピアレギュレーターより高い。しかし日本のパーツ屋から1個単位で購入した価格であり、製造元の中国から直接購入、或いは専用回路として台湾辺りで製造すれば、コストは1/4近くになると考える。そうであれば、ピアと比べても十分な価格競争力はある。
 なお、マイコンで自動調整する意義は余りないだろう。たった1回切りの調整であり、ユーザーがハイフラ現象が無くなるまで、ボリュームを調整すれば済むことだ。或いは、出荷前にお店側で適切な電流値に設定すれば済む話だ。思うに、わざわざマイコン調整をしているのは、難しく見せかけて類似品が出てくるを防止するためであろう。
 簡易に特許庁で調査した限り、PIAA社からの特許出願は僅か12件、本件に関するものは無かった。また「ハイフラ」で検索しても該当する特許の中には、レギュレーターに関するものは無い。多分、当たり前の回路を構成するだけで、特に特許性はないと判断しているのだろう。

 右ウィンカーの検証
 自作レギュレーターへの吸い込み電流は4.3A、吐き出し電流は2.5Aです。吐き出し電流が少ないのは、走行直後でバッテリーの蓄電量が多い為と推測されます。

 左ウィンカーの検証
 自作レギュレーターへの吸い込み電流は4.5A、吐き出し電流は2.4Aです。クランプ型の電流計なので左右は誤差範囲内でしょう。


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