リモートモニタリングへの挑戦
前回までの製作にて、我が家の太陽光発電システムは完成したかのように思えます。しかし、良く観察してみると電気が余る日と足りない日があることが何となく判ってきました。蓄電池容量が小さい事が要因ではありますが、では実際にどれだけの過不足があるのか知りたい気持ちに駆られます。何とか「発電量」と「消費電力」を記録できないか。
そんな矢先、知人のCQ出版社SYさんが面白いモノを入手してくれたので、それを使いこなして見ることにしました。
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Webデータレコーダー WDR-3
データをある一定時間毎に記録する装置をデータロガーと言います。インターフェースだけ購入してPCソフトを使っても同等の事はできますが、信頼性は今一つ。途中でWindowsアップデートなどされたら一貫のお終い。工業計測分野では、専用のハードウェアを利用します。
温度計測ロガー「おんどとり」の愛称で有名なT&Dさんには、比較的手頃な価格のデータロガーが多数ラインナップされています。電圧データロガーの中で、特に異色なのが、今回のWebデータレコーダーシリーズです。簡単に言うと、データロガーとマイクロWebサーバーが合体した商品です。
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WDR-3にはアナログ入力(0-5V)2回路と接点入力2回路があり、各2880点記録できます。アナログ入力は8ビットの分解能で、記録間隔は最小で10分毎、即ち20日間の記録ができます。記録が一杯になると古いデータから順番に更新されるので、エンドレスな記録が可能です。
データ記録は瞬間値と平均値がありますが、太陽光発電の場合、平均値記録が妥当です。
他に警報出力(接点出力)を備えており、データが規定条件になれば、警報を出すこともできます。例えば異常な電圧が検出された時に、リレーをOFFして回路を切ることもでき、現場に即した細かい配慮がなされています。
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本機はRS232CやSUBなどのPC直結の通信手段を持ちません。その代わりにCFスロットとEthernet端子があります。CFタイプの通信カードは何種類かに対応しているのですが、古いタイプのカードが多く、実質的に利用できるのはFOMAカードくらいです。
これら通信手段によりTCP/IP通信を行い、内蔵のマイクロWebサーバーへパソコンのWebブラウザ経由でアクセスし、データ閲覧やデータダウンロードを行います。
付属CD-ROMソフトからの作業は初期登録くらいで、殆どの作業はWebアクセスで行うことができます。この辺りの操作性はパソコン世代の人には使いやすいと思います。逆に、CSVファイルをExcelでグラフにする程度の技量がないと面白くないかも知れません。
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無線LANアダプター MZK-MF300N
今回の設置場所である1階テラスと、屋内の有線LANコンセントある場所までの距離は10m以上あるため、今回は無線LANを利用することにしました。
たまたま無線LAN親機(ブロードバンドルーター)が802.11n規格に対応していたため、子機も802.11nに対応するプラネックスの新製品を使って見ました。安いのも魅力で、アマゾンで3千円ちょっとで買えます。しかも見ての通り非常に小さい。WPSボタンがあり、一発でWPAモードを設定でき、セキュリティーもバッチリです。
ご参考までに、WDR-3はCFタイプの無線LANカードも使用できますが、この種の製品は2002年頃の発売で、セキュリティーはWEPにのみ対応、かつWDR-3側もシェアードキー認証しか対応していないため、ハッキングに遭いやすくお勧めはできません。
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インターネットから見る
1.ダイナミックDNSの登録
無線LANで繋がると、宅内ではパソコンのWebブラウザからWDR-3のIPアドレスを叩けばモニターは出来ます。しかし、そのIPアドレスはあくまで宅内だけのプライベートアドレスなので、インターネット(宅外)の世界では通用しません。固定IPアドレス(グローバルIPアドレス)を取得できるプロバイダーもあるが、有料で結構高いです。
そこでダイナミックDNS(DDNS)サービスを利用することにしました。勿論、ブロードバンドルーター(BBルーター)がDDNSサービスに対応している事が大前提になります。
BBルーターによって対応するDDNSサービスが異なりますが、筆者の場合、NynDNSの無料サービスを利用しました。先ず最初に、NynDNSのWebサイトに行って、手順に従って自分の好きなドメイン名を取得します。登録完了でパスワードが発行されるので控えておきましょう。
なお無料サービスは30日間IPアドレス変更等が無いと自動的に消去されます。それまでにDDNSサイトにログインするか、$15/年の会費を払って有償サービスに変更するかにしましょう。
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2.BBルーターの設定
最初に、DDNSサービスの登録をします。先ほど取得したドメイン名とパスワードを登録します。これでインターネットからBBルーターまでは辿り着けます。
次に、ポートフォワードの設定を行います。ポートフォワードとはインターネットからのアクセスに対して、宅内LAN上の特定機器(今回の場合はWDR-3)に特定のパケットだけを接続させる機能です。BBルーターによって表現が違い、筆者所有のBBルーターには「ローカルサーバー」と書かれています。
似たような機能にDNZがありますが、これは全てのパケットを通すのでハッキングされる恐れがあり危険です。ポートフォワード機能により今回の場合WDR-3にWebとメールだけ許可するように設定します。詳しくはBBルーターの説明書を読んでください。
またポートフォワード先はWDR-3のプライベートIPアドレスを指定する事になるので、WDR-3用のプライベート固定IPアドレスを一つ決めておきます。なお固定IPアドレスは設定できる範囲があり、DHCPでの自動割当範囲から外しておいた方が無難です。筆者の場合、DHCPによる自動IPアドレスの付与範囲は192.168.0.1から192.168.0.64までに制限しています。
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3.WDR-3の設定
説明書では測定対象の機器を繋げてからの設定になっていますが、LAN関係の初期設定にはパソコンから付属ソフトを使って行う必要があり、屋外での作業が困難なので、先に設定関係を全て済ませて、動作確認ができたものをセットアップする方法にします。
設定方法はマニュアルに従って作業を進めれば簡単です。問題があった時に何処が悪いか判らなくなるので、まだ無線LANは繋がないでください。パソコンと違い動作が遅いのでセットアップに時間が掛かります。設定毎に再起動が必要なのは如何なるものかと思いますが、気長にやりましょう。
再起動中に如何なる作業もしては行けません。筆者はWDR-3をハングアップさせてしまいT&Dさんのお世話になってしまいました。でも、T&Dさんの素早い対応には感謝!
一点だけ注意、IPアドレスは固定にして、先ほど決めた固定IPアドレスを登録しましょう。筆者の場合、192.168.0.251に設定しています。
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WDR-3には3つのログインモードがあります。ネットワーク等の設定をするモード、ロガーの設定をするモード、閲覧者のモードです。前2モードはID/Passwordを設定します。
ロガー設定では、入力フルスケールである5V時と測定データ無しの0V時にデータ表示をどのような表示にするかの設定ができます。言い換えれば、y=ax+bのデータであっても2点値を登録しておけば、正しい測定値として表示できます。また表示単位や測定項目表示(チャンネル名)も設定できます。
筆者の場合、後述するDC電力トランスデューサが0W時に0V(オフセット無し)、125W時に5V出力されるようになっているので、0Vの値を0に、5Vの値を125、単位にWを入力しています。
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無線LANでつなぐ
無線LANアダプターはコンバーターモードで使用します。このモードに対応していない無線LAN機器は使えないので要注意。設定はマニュアルに従って進めれば良いが、二点だけ注意があります。
まず、無線LANアダプター自体のIPアドレスを固定IPアドレスに設定すること。DHCPにすると後でLAN上で探せなくなる可能性があり、パソコンからの設定変更ができなくなます。設定変更の為に現物まで行かなければならないハメとならないように注意します。
無線LANアダプターにもアダプターに接続される有線LAN機器に対するDHCPモード設定が存在しますが、これはOFFにします。
なお、BBルーター(無線LAN親機)側にDHCPモードがある場合、これをONにしてしまうと、接続する機器側で混乱が生じ、宅内から直接IPアドレスを叩いてもWRD3に上手く繋がらないケースが発生することが判りました。注意してください。
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以上でネットワーク設定とデータロガー設定は終了。WDR-3と無線LANアダプターをイーサネットケーブルで接続して、無線LAN経由でパソコンからWDR-3が見えることを確認し、事前のセットアップは完了です。
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DC電力トランスデューサの製作
データロガーWDR-3で測定できるのは電圧情報です。今回測定したいのは、太陽電池の発電電力とシステム全体の消費電力である。電力を測定するには、測定対象物の電圧と電流を計測し、それらの積を求めることが必要です。それらの積数値を電圧値に変換してWDR-3に入力します。電力計測と電圧変換を一つに纏めたトランスデューサ(変換器)を製作しましたので、ご紹介します。
このビデオはトランスデューサが動作している様子です。表示部が一つしかないので、発電電力と消費電力を交互に表示しています。赤LED点灯時が太陽電池による発電電力、緑LED点灯時がシステム全体の消費電力です。電力量計ではく、その時々の電力を計測して表示しています。電力値はアナログの連続データですが、表示器のサンプリング周期に応じてその瞬時値が表示されています。
電流検出にはCTセンサを使用しています。コイルから生じる磁場をホールセンサで検出し電流値とする方式です。誤差1%以内で精度良く計ることができ、シャント抵抗方式とは異なり、発熱や電圧ドロップは殆どありません。電圧検出はポピュラーな分圧抵抗方式を採用しています。それら電流と電圧の積はアナログ乗算器というオペアンプAD633JNで積算して、アナログ電圧の形で取り出しています。
出力電圧をWDR-3の入力電圧範囲に合せるために、非反転増幅器を用いてAD633JNの出力を電圧増幅しています。計測回路は2回路搭載していますが、WDR-3の入力部がGNDコモンとなっているため、計測出力のGND共通化を図る必要があります。そのため発電側の電圧計測部に計装アンプを挿入して、入力と出力をアイソレーション(絶縁)しています。理由は、チャージコントローラーの回路上、発電側と負荷出力側のGNDは非共通となっている為です。なお、CTセンサは最初から計測対象とアイソレーションされています。
本来、WDR-3も無線LAN子機もACアダプターを電源としています。今回は、太陽光独立電源システムの計測に使用するので、これらの電源も太陽電池で発電した電力を使うことにしました。その為にDC12VからDC5Vの作り出す絶縁型のDC/DCコンバーターを内部に搭載しています。
なお、表示部分はおまけ的に付けたもので、タイマー用ICを使った50%デュティーオシレータでリレーを駆動し表示を切り換えています。使用した表示器(デジタル電圧計)の精度が余り良くなく、表示値は参考程度でした。
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計測装置の組込み
データロガーWDR-3と無線LANアダプターMZK-MF300Nは、制御盤1の扉裏に取付けました。WDR-3は専用の取付ホルダーが市販されていますので、ホルダーを付属の両面テープで扉に接着します。MZK-MF300Nは市販のクッション付き両面テープで扉に接着しました。
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トランスデューサは入出力の関係からチャージコントローラーの近くに設置します。太陽電池とチャージコントローラー入力部の間、チャージコントローラー出力と負荷の間に計測端子を接続します。トランスデューサーへの電源は、統合制御基板からのDC12V出力から取り出します。
トランスデューサーとWDR-3間の配線は、計測信号線3本と、DC5V電源線でです。トランスデューサーからMZK-MF300NへもDC5Vを供給します。DC5V用のコネクターは、どちらも中央部がプラス電極で、WDR3は市販の標準プラグが使用できますが、MZK-MF300Nは特殊なミニプラグなので、ACアダプターのケーブルを切り取って使用しました。
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計測装置用のDC12V電源は、制御盤2の統合制御回路からの出力から取り出します。理由はバッテリー放電時にチャージコントローラーが出力を停止をしても、AC電源からのバックアップが得られるからです。
今回は更に、小型バッテリーを並列に挿入して万全を期しました。タイマー下に見える小さな半導体は、バッテリー逆流防止用のダイオードです。また、このバッテリーには以前使用していたセンサ用の小型太陽電池(0.65W)を接続しています。どの程度役立つかは分かりませんが、自然放電を補う程度は十分にあると考えます。
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WDR3には2つの接点入力があり、ON/OFF状態の計測ができます。今回は不定時動作の庭園灯と屋内植物育成灯の2つのモニターも行います。接点入力の仕様としてON 検出レベル1V 以下、OFF 検出レベル3V 以上とありますが、単純に制御盤のLEDパイロットランプからDC12V信号を接続しても動作しません。
T&Dからの情報では、「ON/OFF入力端子は常時2.5V程度の電圧を維持しています。OFF時に電圧が1V以下になるよう何らかの抵抗部品(10KΩ程度)を入力部に接続してください。」との事でしたが、パイロットランプに並列に10kΩの抵抗を接続してみてもフォトMOSリレーの特性上、OFF時も2Vあり、この方法は使用できませんでした。仕方なくリレー基板を作成し、接点入力とすることで解決しました。
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