LED植物育成灯の製作

 我が家の太陽光発電所も開所から22ヶ月が経ちました。昨年秋から計測システムを導入し、発電と消費の関係も徐々に明らかになってきました。蓄電池の増強により雨の日が1日程度では影響は受けなくなりましたが、やはり消費電力を減らすのが課題であります。消費電力が一番大きいのは植物育成灯で、インバーターによる高周波点灯の20W定格の蛍光灯を使用しておりますが、点灯時には安定化電源を含め機器全体で約30Wを消費しています。今回はこれをLED化することにしました。


文部科学省HPより
東海大学開発工学部教授 高辻正基 著

植物育成に有効な光とは

 一般的な植物の葉は緑に見えるのですが、これは緑色の光を反射しているからです。光合成を司る葉緑素は、左図に示すような吸収スペクトルを持っています。
 これを見る限り、赤色(660nm近辺)と青色(450nm近辺)に二つの吸光合収ピークがあり、この波長が光合成に特に有効であることがわかります。
 また、赤と青の比率は10:1から5:1が適切であると言われています。この比率は植物の種類によって異なります。

文部科学省HPより
東海大学開発工学部教授 高辻正基 著

 当所も今までは、植物育成用蛍光灯という特殊な蛍光灯を使用していました。その波長特性は、こちらにあります。
 LEDは現在いろいろの波長のものが開発されており、
1.発光波長を上記のピークにほぼ一致させることができる。
2.熱放射がない,小型軽量,長寿命,低電圧駆動できる。
3.光合成に有利なパルス照射が可能である。
という多くのメリットがあります。
 赤色(波長660nm)と青色(波長450nm近辺)を使えば、植物による光の吸収効率が高くなり,比較的弱い光でも健全に生育させることがでます。

文部科学省HPより
東海大学開発工学部教授 高辻正基 著

 光合成には、明反応と暗反応があり、炭水化物を生成する暗反応には光を必要としません。明反応を構成する光化学系の反応の中心であるクロロフィルP680の還元時間に200μsecかかり,この間は光照射が必要ないことがわかっています。即ち、2.5kHzのパルス照射が一番効率的です。連続光に比べて成長率、光合成速度とも20〜25%の増大が見られたとされています。
 一般的にLEDの輝度は発光による熱損失と寿命のトレードオフですが、パルス照射によればピーク電流を増やす事ができます。
 従って、2.5kHzでDuty50%のパルス駆動によってピーク電流を2倍に増やせば、同じ消費電力でも連続照射に較べ、2.5倍程度の成長が期待でます。今回はこれら原理に基づき実証試験を行います。


LED植物育成灯の主要スペックを決める

1.LEDの選定
 最初に660nmのLEDを探します。LEDの発光波長は材料によって決まります。この波長を得るには半導体材料としてGaAlAsが必要ですが、実はこの材料は発光効率が低いらしく、現在殆ど作られておりません。
 旧型LEDはあるのですが、輝度が低く暗いものが殆どです。逆に、植物工場用として1Wや3WというパワーLEDが販売されていますが、数が少なく売り切れ状態で価格も@600-700円と非常に高いです。(普通のLEDの20-30倍)
 製品化を考える場合には、組立工数の問題もあってパワーLEDの方が安価に商品が製造できますが、素人工作では、小さなLEDを多数並べる方法が、手間は掛かりますが、LEDの入手し易さや放熱の心配が要らないなどメリットも多いと思います。
 今回は、電子部品通販のRSオンラインから英国のKingbright社製のLEDを購入しました。選択肢は幾つかありしたが、最も高輝度なタイプを選びました。450nmはポピュラーでどこでも入手可能ですが、プリント基板への実装の都合もあり、660nmと同じ形状の同社製のLEDにしました。以下、LEDの主要諸元を示します。

L-1513SRC-E

L-7113BQC-D

If(mA)

20

20

Iv(mcd)

2800

2200

λpeak(nm)

660

468

Δλ1/2(nm)

20

25

Vf(V)

1.85

3.5

Power dissipation(mW)

100

105

Peak Forward Current(mA)

155

180


2.LEDの必要個数を算定する
 先に述べたように従来の蛍光灯と今回のLEDでは波長特性や発光効率が異なるので、直接的な比較は難しいのですが、LEDでは蛍光灯の20/2.5=8W程度あれば置換えには十分です。
 LEDはデータシートを見る限りIf=30mA程度までは実測されており安全に使えそうです。この時の消費電力は、赤が57mW、青が113mWとなります。少し青が定格を越えていますが、強制空冷によってカバーします。赤:青=10:1で考えると、赤が117個、青が12個必要となりますが、輝度は赤の方が30%程度高いので、若干赤を少ない目にし、青を増量します。
 今回の試作では青は5個単位の販売ですので、赤を110個、青を15個使用しました。この仕様で計算上は7.97Wになります。(回路損失を除く)

 

3.LEDの駆動方式を検討する
 今回は50%デュティーのパルス駆動を前提に考えておりますので、効率の良いPWM方式の電流制限は使えません。シリーズ抵抗による電流制限を基本に考えますが、LEDのバラツキがかなり大きいので、アクティブ制御できる素子を前提に考えなければなりません。
 抵抗と定電圧ICの組合せ、CRD(定電流ダイオード)などが考えられますが、電源電圧が12Vと低いのでLED直列数は少なく、青で3直列、赤が5直列が限界です。そうすると並列数は25を越えますので、高価な素子を幾つも並べる訳には行きません。
 そこで今回は、カレントミラー回路で定電流回路を構成します。一ヶ所だけCRDを使った定電流回路を組み、他はトランジスタ1個と抵抗1個でミラーリングします。これなら、1回路辺り10円程度で構成できます。今回はCRDは30mAタイプを2パラで使用しました。デュティー50%駆動ですので、平均電流で1回路辺り30mAになります。

 

4.照度センサ回路を検討する
 部屋の中に人が居る時は、部屋の明かりがありますので植物育成灯は不要です。また今回のようなLED灯の色調は決して心地良い光ではありません。従って、部屋が暗い時のみ植物育成灯が点灯するようにします。
 前回は市販のCDSによる点灯回路を使いましたが、折角環境に優しいモノを作っているのですから、CDS(硫化カドミニューム)は使いたくありません。フォトダイオードを使った点灯回路は適当な市販品がありませんので、今回は自作することにしました。
 しかし、一般にフォトダイオードを使うには電流電圧変換用のオペアンプなど回路が必要でノイズとの戦いになります。筆者も過去苦労した経験があります。今回は丁度、秋月電子にフォトICダイオードという便利なパーツがありましたので、それを活用することにしました。使って見ての感想ですが、今回のような目的にピッタリで、非常に使い勝手の良いパーツです。これほど一発で試作ができると気分も良いものです。

 

5.主要諸元の決定

電源仕様

DC12V,1A以内

LED仕様

660nm 462cd, 468nm 49.5cd, R/B=9.3

点灯周波数

2500Hz, 50%Duty矩形波

照度センサ

フォトダイオードによる点灯制御(動作点可変)

LED冷却方式

DCファンによる密閉式強制空冷

LED照射角度

下向き、アクリル製拡散板使用

ケース

タカチ製CH型コントロールボックス
【CH6-22-14GS】


予備実験

 本番設計に先立ち、ブレッドボードを使って基礎的要件の確立を行う。回路確認を行ったのは以下2点
 1.カレントミラー回路の定電流動作
 2.フォトダイオードによる照度センサ動作
結果は以下の通り、良好であった。

1.カレントミラー回路
 まず、LMC555を使ったデュティーオシレタが2.5kHz50%デュティーの信号を安定して発振していることを確認。確認試験ではCRDは30mAタイプを1個使用、カレントミラーは3回路を構成し、20Ωの直列抵抗器の両端電圧から電流値を推測する。

R1

R2

R3

抵抗値

20.2kΩ

20.1kΩ

20.1kΩ

電圧値

307mV

305mV

310mV

推定電流値

15.2mA

15.2mA

15.4mA

2. フォトセンサ回路
 フォトICダイオードS9648(浜松フォト)のデータシートによれば、250lxの照度にて1mAで電流が流れる。直列抵抗をリファレンス通り10kΩに設定して、レギュレータICを介し9Vを供給した。机上での照度は不明であるが、手をかざして陰を作ると7V→0.9Vの範囲で出力が変化する。結構広範囲に電圧が変化することが確認できた。
 従って、コンパレータの基準電圧は2kΩの半固定抵抗器により、9V〜0Vの広範囲で可変できるようにする。

アクリルカバーを外した内部
 サンハヤトの白色プリント基板を使用


LED植物育成灯の製作

 予備実験の結果を踏まえ、製作したのが左の作品です。
 回路にご興味のある方には設計情報を公開させて頂きます。ご自身で製作される時の参考にして頂ければ幸いです。なお、各資料は無断転載禁止とします。

 ・設計資料(PDF)

 ・回路図(PDF)

 ・部品表(PDF)

 ・基板パターン図(PDF)

 上記データをご覧になりたい方はご連絡ください。パスワードを教えます。

フォトセンサ部分

DC電源コネクター

待機時(部屋が明るいとき)

点灯時

照射状態1(実験前)

照射状態2(実験前)


LEDによる植物育成の効果

 リビングに置いた観葉植物「ドラセナ」写真と、自然光とLED光の比較実験のために「ペペロミア」を使って効果を確認しました。LED照明は太陽電池の出力が50W以上の時のみ点灯するように制御されており、雨の日は点灯せず、おおよそ太陽光の日射と同じような条件で点灯しています。晴れの日で8-10時間の点灯ですが、部屋の照明が点くと消灯するようになっています。


実験前(5月2日)


窓から入る光に向けて成長している。

実験後(6月5日)


LED光源に向けて成長、葉数も増加

光源から約1.5m真下に位置に設置

画像調整のため葉に茶色部分(LED反射部分)は残るが、かなり嵩が増えている。

比較試験の為に窓際に設置した鉢植え
(比較の為、背丈や幅がほぼ同じモノを購入)

陽当りの良い場所に若干移動、1ヶ月で少し成長している。(成長は遅い)

LED照射と自然光の比較
 LEDの方が背丈と葉数も増えて成長していると見られる。

 裏から見た写真、茎の成長の仕方が明らかに異なる。

LED光源に向けて一直線に伸びる茎

窓際では、ごく普通の成長です。


LED植物育成灯の効果

 写真を比較して戴ければ一定の効果があることは明らかです。少なくとも南面の窓際でカーテン越しに陽射しを受けているよりは、植物は生育しています。
 植物工場に使えるかどうかは分かりませんが、今回のような8W程度の照明でも、室内で観葉植物を育てる目的には十分であることが確認できました。期待通りの成果と言えましょう。


省エネ効果の確認

 蛍光灯時代にピーク値が47W程度であった消費電力が、LED化により27W程度まで減少していることが判ります。LED化で約20Wの省エネルギーが達成できました。
 これに伴い、植物育成灯の点灯時間も発電量が60W以上から50W以上に変更し、点灯時間も従来より長くなっています。今後様子を見ながら点灯時間の延長を行う予定です。


蓄電池制御盤の追加

 今まで蓄電池は配線途中に、市販のヒューズホルダーを使って、ガラス管ヒューズを設置していましたが、接触が怪しいことが1回ありましたので、今回はブレーカーを設ける事にしました。加えて、蓄電池システムの監視を行っているBlueSkyのIPN-Proコントローラーと付属の大電流用シャント抵抗を一つのBOXに収納しました。(7月24日)

BOXの構成

 右:DC制御盤
   ポンプ・庭園灯・植物育成灯の制御
中央:チャージコントローラー盤
   MPPT・蓄電池充放電の制御
   発電・消費の電力計測
 左:蓄電池制御盤
   蓄電池の状態監視と制御の最適化
   蓄電池用ブレーカー

 左写真は蓄電池制御盤の中です。IPN-Proと蓄電池への入出力電力を正確に計測する大電流用シャント抵抗器、蓄電池用のブレーカー(4台)から構成されます。
 ブレーカーは汎用のスリム型ブレーカー(日東工業製NX51A 2P 20A)ですが、熱動式と言われるもので、DC65Vまでの直流電流の遮断にも使用できます。2台は今後の蓄電池増設用の予備機です。

 7月18日ホテイアオイの花が咲きました。初めての経験です。株を5月に買いましたが、4株が水中で茎同士がひっついて合体して一つの株のようになっています。(錯覚か?)この後、1週間で4つの株から次々と花が咲きました。
 これだけ生い茂ると、水温を下げる効果があるのでしょうか?今年は天然黒メダカも元気に生きています。

接続箱 逆流防止ダイオードの更新

 最近STMicroからCool bypass switch という新しい半導体が発売されています。太陽電池モジュールのバイパスダイオード用に開発された素子で、従来のショットキーバリアダイオードよりもかなり低損失で発熱が少ないと謳われています。
 中身は右の図のようになっており、ダイオードではなく低ON抵抗のFETを使って整流を行っています。

 実際にSPV1001T40という製品を購入して実力を調べて見ました。見た目はTO220のパワー半導体パッケージです。端子は実質カソードとアノードの2つしかありません。要するに普通のダイオードと全く同じです。
 電源にDC12V、負荷として8Ωのホーロー抵抗(コップの水に浸ける)を用意し、直列に本品を挿入し、流れる電流とカソード・アノード間の電圧=ドロップ電圧を測定してみました。比較としてショットキーバリアダイオードSBR1045を用意しました。

電流

ドロップ電圧

SPV1001

1.309A

62mV

SBR1045

1.266A

386mV

 結果は一目瞭然、消費電力は1/5.8です。逆方向の抵抗・電流は我がデジタルマルチメーターでは測定できませんでした。(DC3.8V印加)

 バイパスダイオード用ですが、通常のダイオードと同じように使用する事ができると判明しましたので、接続箱の逆流防止用ダイオードの置換えとして使用し、電力損失を減らすことにしました。
 上手く行けば、この部分で今まで3W近くロスしていましたが、0.5W程度まで少なくできます。どういう挙動を示すか不明ですので、念のためヒートシンクを付けています。

 接続箱に納めた状態です。ヒートシンクは手持ちのものを使用したため、半導体の取付はホームセンター等で売っている市販のL型アングルを利用しています。
 暫く使ってみて、効果をレポートしたいと思います。(8月17日)


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第1章

30Wベランダ設置型 太陽光発電システムの製作

第2章

噴水ポンプ、庭園灯、植物育成灯の制御基板の製作

第3章

100W屋根設置型 太陽光発電システムの製作

第4章

リモートモニタリングシステムの製作

第5章

市販チャージコントローラー 実試用評価

第7章

LED熱帯魚用灯の製作

第8章

蓄電池の大容量化に欠かせない循環電流防止装置

第9章

ベランダにフットする2倍電圧システムの製作

第10章

進化し続ける循環電流防止装置(理想ダイオード採用)

第11章

リチウムイオン電池の導入

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・記載内容(材料や価格、加工や設置方法など)に関する保証は致しません。
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