循環電流防止装置パート2(2020.6.9)発明から早8年が経過しました。個人的には還暦を迎え、長く努めた会社も定年退職し、今は別の会社で嘱託で後進を育てています。 その間、100名を超える皆様からのお便りを頂き、新ためて循環電流にお悩みの方が多いと気づきました。この8年間に技術も進歩し、新しい部品も登場していることから、最新の技術を使って作り直そうと考えました。 折しも3月からコロナ禍に見舞われ、外出制限が出て、いやおうなく自宅で過ごさざるを得なくなり、これを機会のkiCADの勉強を始めました。従来の回路図エディターや基板エディターとは違い、本格的な設計支援のソフトにも関わらず、無料の部品ライブラリーも揃っていて、設計が随分と楽になりました。 配線ミスやレイアウトミスはコンピュータがチェックしてくれますし、3Dモデルで如何にも試作したような気分にさせてくれるところは最高ですね。 われながら結構煮詰まった設計だと思っていますので、ぜひ皆さんには試作して欲しいと思い公開させていただきました。 | |
現行版のアップデート 現行版は部品点数が少なく、分かりやすいのが特徴です。しかし、穴あき基板を使っているため、組み立て難いという欠点があります。一方、近年はFusion PCBのように100mm四方の基板であれば、数千円で製作してくれる業者も出てきました。 部品は全て秋月電子から入手可能です。保護装置に関しては、各自の都合で決めて頂いて結構ですが、回路上に保護回路がないので、何らかの対策は必要です。(保証は致しません) | |
目標仕様あくまで入門用なので、電力容量のアップは考えておりません。先ずは小規模で本装置の効果を実感頂き、次のステップに移行して頂くことを考えて設計しています。 | |
kiCADによる回路設計 基本設計は、実績のある現行版を踏襲します。ただし、半導体など部品はアップデートします。ブリッジダイード以外は全てプリント基板上に実装します。現行版では電流センサーが2.54mmピッチでないための取り付けに苦労したと思いますが、今回はプリント基板なので大丈夫です。 |
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回路にご興味のある方に、設計情報を公開させて頂きます。ご自身で製作される時の参考にして頂ければ幸いです。(基板は銅厚70umで製作ください。)なお、各資料は無断転載禁止とします。 申し訳ありませんが、ご自身で作成された基板を他人へ配布する行為は、無償であっても特許侵害となりますので、行わないでください。あくまで、ご自身が趣味として楽しまれる目的での利用に限ります。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 組立図 まだ部品手配もしておりませんが、実際に組み立てする際の参考に、実体配線図を提供します。現行版よりも、組み立てが随分と簡単になっています。 |
理想ダイオードを使った循環電流防止装置(2020.6.26) いよいよ本題です。従来型では逆電流防止のためショットキーバリアダイオードを使用していました。それでも順方向の電圧低下は1V近くあります。 そこで理想ダイオードを使った循環電流防止装置を検討してみました。理想ダイオードはFETの他に専用のICと幾つかの電子部品が必要で、回路は複雑になります。 | |
目標仕様皆様のお便りを見ていますと、意外と大容量の太陽電池モジュールを使用されている方が多いと思います。山小屋やキャンピングカーで利用されている人も結構います。 それならば12Vシステムで最大500W程度、24Vシステムで最大1kW程度の入出力が可能な装置にすべく仕様を考えてみました。 | |
理想ダイオードとはここではアナログデバイセス社のLTC4359を例にあげて説明します。LTC4359のデータシートにあるIC内部のブロックは下図のようになっています。 LTC4359は入力側(Vin)と出力側(Vout)を電位差検出し、順方向に電流が流れる時(Vin>Vout)の時だけ外付けFET(Q1)がONするようにゲート制御します。30mV以上の電位差があればONします。Q1のソース(S)とドレイン(D)に注意してください。この間に図示しないボディダイオードが存在がありますが、ボディダイオードは順方向に電流を流すようになっています。そのため逆方法には全く電流が流れません。 | |
仮に、D回路と呼ぶことにします。 |
左図は、LTC4359の最も一般的な使用方法です。敢えて外付けFETのボディダイオードが書かれています。 |
仮に、S回路と呼ぶことにします。 |
左図は、上記の解決方法として、Q2を付加してボディダイオードの向きを相殺しています。 この場合でもLTC4359はVinとVoutの電位差30mV以上でQ1,Q2をONするように動作します。 なお、R3は必須ですが、D4,C1,R4は保護のため設けられています。詳しくはLT4359のデータシートをご覧ください。 |
kiCADによる回路設計 おさらいです。循環電流防止装置の構成要素は、 (1)は上記のD回路によって完全に代替できます。ダイオードとは違ってFETの場合はON抵抗(Rds)によって電圧降下を生じますが、今回使用するFETは、50A流してもRdsは2.5mΩと微小です。 (2)は上記S回路を2組使用することで実現できると考えます。 設計が終わった初期回路図はこちらです。 | |
充電側のVoutの電圧検出については、下流側にD回路があるので、バッテリー電流は完全に遮断されています。そこでFETのSD間に100kΩの抵抗を挿入して、充電側S回路のLTC4359がバッテリー電圧を検出できるようにしています。高抵抗なので流れる電流は極く僅かです。(24Vで100kΩなら流れる電流は最大でも0.24mA/回路) | |
LTspiceによる動作シミュレーション幸いにもメインのICがADI(旧リニアテクノロジー)製でしたので、LTspiceのモデルがありました。またスイッチング用のMOS-FETもモデルがありましたが、鉛蓄電池やチャージコントローラのモデルは当然ながら存在しませんので、電圧源とダイオード、負荷抵抗を組み合わせて簡易モデルを作成しました。 シミュレーションの結果、データシートにある突入電流制御回路(上記S回路のC1,R4相当)は、動作が遅くなり実用に絶えませんので、不採用としました。また、電圧検出用のFETと並列にある抵抗について、放電側(旧回路図R16,R26,R36,R46)は削除、充電側(旧回路図R15,R25,R35,R45)は100Kから10kに変更しました。改良後の回路はこちらです。 シミュレーション結果は、こちらをご覧ください。全く問題なく動作することが確認できました。ちなみに電圧低下は20A流して0.1V程度と大変良好です。 | |
設計情報の公開回路にご興味のある方には設計情報を公開させて頂きます。ご自身で製作される時の参考にして頂ければ幸いです。 今回は部品点数が多く、かつDIPサイズでは供給されない部品もあり、端子台とLED以外は表面実装部品を採用しています。使用部品に関しても可能な限りFUSIONのストック部品から選択しています。 | |
画像はクリックすると拡大されます。 | 各資料は無断転載禁止とします。申し訳ありませんが、ご自身で作成された基板を他人に配布する行為は、無償であっても特許侵害となりますので、行わないでください。あくまでご自身が趣味として楽しまれる目的での利用に限ります。 |
組立図 実際に組み立てする際の参考に、実体配線図を提供します。 | 画像はクリックすると拡大されます。 |
実証試験スケジュールと基板頒布(2020年10月終了)LTspiceでのシミュレーションで動作確認ができましたので、7月1日に試作基板を発注しました。 今後の予定ですが、
※試作品ですので製品保証は致しません。返品や交換もお断りしております。何か問題があれば各自解決することを大前提とし頒布致します。 評価が終了し試作基板の頒布を行いましたが、募集から2ヶ月後の10月8日に完売しました。現在、MK2版試作の頒布を行っております。 | |
試作基板完成 発注から27日間を経て、FUSIONより試作品が到着しました。基板端子台とLEDは、SMT部品ではないので、付いていません。頒布時もこの形態となりますので、各自LEDの手配と半田付けをお願いします。 | |
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総合組立 1号機 (2020.8.11)毎回、ケースをどうするか迷うところですが、今回はタカチのアルミケースと日東のプラボックスの2種類での試作を行います。先ずはタカチのアルミケースから。 | |
画像はクリックすると拡大されます。 | 今回はタカチ電機工業のFC6-30-25GSを使用しました。基板と端子台2個をセットしても十分な余裕がありますが、ヒューズボックス付きケーブルやAWG10(5.5SQ)の太いケーブルを収納するためには、作業性も考慮すれば適切な寸法です。 このケースはバラ部品で送られてきますので、自分で組み立てる必要があります。組み立てる前に、底板の穴あけを行います。参考図面はこちらです。使用するボルトナットは全てM3です。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 基板全体での発熱量は最大で8Wと想定されます。今回の基板は70ミクロンの厚銅かつパターン面積が広いので、基板表面からの放熱が期待できますが、念のため小さな放熱器(150x20x5mm)を2枚取り付けます。ケースに余裕のある方は、ヒートシンク高さを10mm以上にしてください。 基板裏面が端子台部分を除きフラットなので、裏面に絶縁シートを挟んでヒートシンクを取り付けます。予め基板には放熱器固定用の穴が4箇所空けてありますので、それを利用して取り付けます。 放熱器を新たに作る場合はこちらを参考にしてください。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | ヒートシンクと基板の間に挟む絶縁シートです。絶縁性だけでなく、熱伝導性が非常に重要となります。今回使用したのは、シリコン製の熱伝導率が6.0W/mKという高熱伝導のものです。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 基板に端子台を取り付けます。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 半田について 筆者は写真上の半田を使用しています。ヤニが結構多いのですが、「両面基板用」をうたうだけあって、半田の流れが非常に良いです。出来上がりに差が出ますので、ぜひ拘ってください。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | ヒートシンクの基板への取り付け |
画像はクリックすると拡大されます。 | LEDは無くとも構いません。 充電と放電の識別を行うには、市販のデジタルパネルメータ電流計などを、チャージコントローラと基板の間に挿入してください。 |
今回の回路で要となるFETスイッチには、infineon社のOptiMOS60VシリーズであるBSC028N06LS3を使用しています。このFETはRdsが2.8mΩと驚異的な低ON抵抗です。充電側、放電側共に、導体抵抗を無視して5.6mΩしかありません。(理想ダイオードはシングル使用、FETスイッチはシリーズ・パラレル接続の贅沢な仕様です。) | |
画像はクリックすると拡大されます。 | Boxに基板と端子台2個を固定します。端子台はパトライト製のTFPM4002(40A2極)とTFPM2008(20A8極)です。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 基板上の平ワッシャは樹脂タイプを使用して、プリントパターンや部品と接触しないように注意してください。
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画像はクリックすると拡大されます。 | ヒューズは、自動車用の平型ヒューズを使用しました。ケーブルとヒューズハウジングのセットでAmazonで売っています。ヒューズ容量は20Aです。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | バッテリーGNDを配線します。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | チャージコントローラ側の配線を行います。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 既存の太陽光発電システムであるバッテリーおよびチャーコントロラとの配線を行います。接続は必ずバッテリー側を先に行ってください。 アクリルカバーは特注品です。図面はこちらです。当方は、「アクリ屋ドットコム」に依頼しました。Web画面上から形状指定して図面が自動作成されます。 |
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実用試験開始(2020.8.11)既存システムへのセットアップも完了しました。初号機の循環電流防止装置に替えて、新しい装置が稼働し始めました。肝となる順方向電圧低下ですが、実測値は下図のようになります。今回使用したFETのデータシートを見て頂ければ分かると思いますが、使用する電圧値や電流値によってRdsは変化します。実測データから推測すると、40A流した時Vf=0.19V程度と推測されます。これであれば目標達成はできると考えます。(余談ですが、CH4のバッテリーはかなり劣化していると思われます。) 従来品に比べ電圧低下が大幅に改善されたことから、チャージコントローラマネジャーにて、最大充電電圧の調整を行いました。従来は16.0V(電圧降下を1Vとして)、今回は15.0V(ボイジャーなので一般バッテリーより少し高い目)です。 実運用結果については、こちらをご覧ください。 データ閲覧はこちらから10分毎にデータ更新しております。 | |
総合組立 2号機 (2020.9.22)2号機は日東のプラボックスでの試作を行います。部品サイズと作業性を考慮し、OPK12-2525CAを選択しました。耐候性がありますので、屋外での設置に最適です。 | |
画像はクリックすると拡大されます。 | 前述のタカチケースでの試作では、充電電流が10A時に、FETの表面温度が65℃、基板パターン面が58℃、放熱器最上部が50℃でした。半導体からの放熱が極めて少ない状況です。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | ヒートシンクに絶縁シートを貼り付けた状態です。今回使用したのは、シリコン製の熱伝導率が6.0W/mKという高熱伝導のものです。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | ヒートシンクの基板への取り付け |
画像はクリックすると拡大されます。 | 木製パネルに基板と端子台2個を固定します。端子台はパトライト製のTFPM4002(40A2極)とTFPM2008(20A8極)です。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 基板の固定には、樹脂タイプの平ワッシャーを使用して、プリントパターンや部品と接触しないように注意してください。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 既存の太陽光発電システムであるバッテリーおよびチャーコントロラとの配線を行います。接続は必ずバッテリー側を先に行ってください。 当所では、今後の本番運用はこの屋外用ケースにて行うことにします。 |
試験結果総括 (2020.10.1) 実運用結果について、2019年9月と2020年9月のデータを比較しますと、バッテリーの劣化が進んでいるにも関わらず、電力効率(総消費電力/総発電電力)が59%から77%へ18%改善しております。 | |
消費電力の違いは、2020年3月の庭園等の改修工事にて夜間の消費電力が増えたためです。消費電力が1.5倍になったにも関わらず、発電電力量はむしろ減っています。 | |
ケース付き1号機の販売理想ダイオード型循環電流防止装置の試作1号機を譲渡します。本記事にある完成品で、タカチ製のケースに入っております。(アクリルカバーやヒューズ、端子台も付属)当方で1ヶ月エージングし、動作確認しております。プラBOX内での使用で、汚れや傷などはございません。 価格は送料込みで20,000円です。試作品ですので、製品の保証はございません。何かあれば各自解決することを前提といたします。ご購入後の返品や返金、交換はお断りいたします。 | |
理想ダイオード型循環電流防止装置 MK2 第一回目の試作品は数ヶ月で完売しました。大変ご好評なので第二回目の試作を行います。 | |
画像はクリックすると拡大されます。 | 基本回路は第一回目を踏襲します。LTSpiceを使って、回路上のどのポイントを計測すれば、チャージコントローラへの電流方向が判別できるのか調査してみました。 |
画像はクリックすると拡大されます。 | 設計情報の公開各資料は無断転載禁止とします。申し訳ありませんが、ご自身で作成された基板を他人に配布する行為は、無償であっても特許侵害となりますので、行わないでください。あくまでご自身が趣味として楽しまれる目的での利用に限ります。 |
MK2基板完成 2020年11月から頒布希望者を募集し、2021年6月に8名の方が集まりましたので、第二回目の試作を実施致しました。今回は冬場の募集となり、希望者の出足は鈍かったようです。 | |
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出来上がったMK2基板です。 |
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画像はクリックすると拡大されます。 MK2基板のテスト風景です。 |
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注意喚起裏面の放熱板は必ず付けてください。放熱板なしで使用すると、左写真のようにFETが焼損する恐れがあります。FET1個あたりの発熱は定格20A時に1.2W程度ですが、長時間電流を流しますと、熱がこもり銅箔剥がれが生じたり、FET内部が破壊することがあります。こうなると修理不可能です。(写真は神奈川県のM氏より) | |
MK2 試作基板頒布のお知らせ2021年8月の第一回目募集は8枚を2ヶ月で完売、2021年11月の第二回目募集は10枚を10ヶ月で完売、2022年8月の第三回目募集は8枚を完売、2023年1月の第四回目募集は10枚を完売、現在は次回試作の予約受付中です。(順調に行けば秋ごろに試作)
従来より、48V系システムへの対応要望が多く、基板単独での頒布もしておりますので、部品の耐圧を上げれば簡単に制作できます。腕に自信のある方は、ご自身で部品を集めてアセンブリーされるのも面白いと思います。(そもそも部品が高いので自作しても安くはなりません) ※試作品ですので製品保証は致しません。問題があれば各自解決することを大前提とします。 | |
当発電所の最新情報 現在、蓄電池としてACデルコ製の鉛蓄電池M27MFを4台並列にして使用しております。 通常、鉛蓄電池であれば、6年間使用した古い電池と新品を並列で使用すると、電池の内部抵抗にかなりの差があるため、新電池から旧電池へと循環電流が流れ、新品電池は殆ど蓄電池としては機能しなくなります。これは電池メーカーが全く推奨しない使用方法です。 | |
その他試作品の配布のお知らせその他、様々な試作品を用意しています。頒布をご希望の方は、こちらからお申し込みください。 | |
実運用での感想詳細なデータはこちらに譲るとして、ざっくりと循環電流防止装置の効果について感じることを述べます。
正直、蓄電池を並列にお使いの方には是非ともお勧めしたい。目から鱗は間違いない。 | |
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この記事を参考にして製作される場合、次の点にご注意下さい。 |
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